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神戸地方裁判所 昭和56年(行ウ)37号 判決

原告

有限会社神尾工務店

右代表者

神尾山治

右訴訟代理人

羽柴修

永田徹

野田底吾

中村良三

被告

須磨税務署長

右訴訟代理人

小西隆

右指定代理人

布村重成

外五名

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が、原告に対し、昭和五四年一一月二七日付けでした原告の昭和五〇年一〇月一日から同五一年九月三〇日までの事業年度法人税の納付すべき税額を金二七八万九二〇〇円、過少申告加算税金一二万八一〇〇円(いづれも裁決により一部取り消された後の金額)とする更正処分及び賦課決定処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  処分に至る経緯等

(一) 原告は、昭和四七年二月七日に資本金三〇〇万円で設立された、建築工事等を営む有限会社である。

(二) 原告は、昭和五〇年一〇月一日から昭和五一年九月三〇日までの事業年度(以下「本件係争事業年度」という。)の法人税について、所得金額九四万七六八五円、納付すべき税額二二万五五〇〇円として法定期限までに申告(青色申告)した。

(三) ところが、被告は、昭和五四年一一月二七日付けで、本件係争事業年度の法人税につき所得金額を九二九万七六八五円、納付すべき税額を二八三万九二〇〇円とする更生処分及び過少申告加算税額一三万〇六〇〇円とする賦課決定処分をした(以下これら二つの処分を合せて「本件処分」という。)。

(四) 原告は、本件処分に不服であつたので、昭和五五年一月二五日国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、同所長は、昭和五六年八月六日付けで前記更正処分のうち、所得金額九一七万二六八五円、納付すべき税額二七八万九二〇〇円及び過少申告加算税額一二万八一〇〇円とする一部取消しの裁決をした。

2  本件処分の違法性

(一) 株式会社大和重機に対する貸倒損失相当額は七八〇万円について

(1) 七八〇万円は貸倒損失であり益金に算入すべき場合でもなく、また、法人税法一三二条を適用すべき場合でもない。

(ア) 原告と株式会社大和重機(以下「大和重機」という。)との関係は、次のとおりである。

すなわち、原告は、代表者神尾山治の個人経営の前身期を経て、前記のように有限会社として設立され、その業務内容も木造建築を主として手掛け、いわゆる建売業者としてそれに関連する業務を行つているものであり、大和重機は代表者小曳勇夫の個人経営の前身時代を経て、昭和四七年七月一日に資本金五〇〇万円、一億円に及ぶ重機車両等の設備投資により設立され、主として宅地、道路、ゴルフ場の造成工事等の土木工事を行い、その年間工事高は三億六〇〇〇万円から四億八〇〇〇万円にのぼつていた。両者は、同業者ではないが、大和重機の行う造成地上に原告が建物の注文建築をするなどの点で業務提携が十分可能な関係にあり、また、神尾山治の実兄が一時期大和重機に勤務していたこと、神尾山治の実姉が小曳勇夫に嫁していることなど人的関係も密接であつた。

(イ) 原告は、大和重機から融資の依頼を受けた際、近い将来に業務提携をする考えのもとに融通手形の振出し等により資金的援助をすることを決め、別紙「大和重機に対する貸付金の異動状況」記載のとおり、昭和四八年八月から融資を開始した。その後の融通手形取引による融資の実態は、おおむね別紙記載のとおりである。

ところが、大和重機が不幸にして倒産したために、原告は七八〇万円の債権の未回収という結果を招いた。

(ウ) 神尾山治には、原告に対する有限会社法上の重大な善管注意義務違反ないし忠実義務違反はない。

なるほど、有限会社法上は取締役の会社に対する責任につき規定しているが、個人経営的色彩の強い有限会社について取締役が有限会社に対し賠償責任を負う場合は、当該有限会社の規模、事業目的、当時の経済情勢、取引先の規模、当該取引行為の経済目的、損害の内容等によつて決せられるべきであり、特に損害賠償請求権の行使によつて真に保護される被害者が有限会社、すなわち当該取締役という関係にある場合は、取締役の一般的な善管注意義務を強調して損害賠償請求権を行使することは現実にはありえず、法律上も許されない。

本件において、昭和四八年から同四九年の前半にかけての第一回オイルショックの時期に原告は大和重機から入手困難であつた鉛ビ管七五口径二〇〇本、給水管四〇〇本、セメント一〇〇俵の支給を受け、当時請負つていた一六ないし二〇軒の請負工事を完成することができた。

このような混乱期には、中小零細企業は相互に共助共存を図る必要があり、将来は原告と大和重機との業務提携により受注も増大する期待もあつたのであるから、神尾山治が前記のような融資をした目的そのものは合理的であつた。

また、融通手形の発行形式そのものは、不況期に行われる融資の形態として現に多用されるもので異常でも無謀でもない。事実、右融通手形は別紙のとおり一か月ないし三か月後には決済されていたのである。

したがつて、神尾山治はその責任において大和重機に融資をしたが、その判断に甘さがあつて七八〇万円の貸倒れが生じたとはいえ、有限会社法上の前記義務違反があつたとまではいえず、原告が神尾山治に対し損害賠償請求権を行使しないのも当然である。

(エ) 法人税法一三二条を適用する場合ではない。

法人税法一三二条の適用に際しては、次の点に注意しなければならない。すなわち、同族会社間の取引のなかには、結果からみて節税ないし租税回避行為といわれるものにも、その取引によつて真実経済的利益を得たものから、倒産の危機を切り抜けるためにあえて「異常」な取引をする場合まで千差万別な取引があるので、特にその当時の経済状態、当該企業と同業者との取引関係などそれまで形成されてきた企業環境などを十分考慮にいれて、行為又は計算の否認の判断をすべきである。したがつて、同条の適用は、少なくとも当事者が用いた法形式が異常であり、租税回避以外にそのような異常な法形式を用いた正当な理由が見い出せない場合に限定すべきである。

この点判例は、同条の行為又は計算を「非同族会社では通常できないような行為又は計算、すなわち同族会社なるがゆえに容易にできる行為又は計算」、あるいは「純経済人の行為として不合理、不自然な行為」と判示している。

原告の大和重機に対する本件融資は、第一回はオイルショック時期の建設資材の品不足を大和重機の援助により切り抜けてきたこと、大和重機との業務提携や資材援助を前提動機として行つたこと、本件のような融資は非同族会社でも時と場合によつてはよく行われる取引形式であること等からみて、法人税法一三二条を適用する場合には当らない。

そして、本件において原告が損害賠償請求権を行使しないことが不合理、不自然であるとして否認されるなら、そもそも貸倒れによる損金経理を全く認めない結果となり、原告は、租税回避どころか貸倒金の益金算入により原告自身の存立すら危ぶまれた事情にあつた。これは新税創設にも等しく、原告の財産を不当に侵害するもので、租税法律主義を定めた憲法に違反する。

(2) 本件係争事業年度の貸倒損失は、三九〇万円を超えることはない。

(ア) 原告は、既に債権償却特別勘定を設けていたので、本件係争前年度において法人税基本通達(昭和五五年一二月二五日付け直法二―一五例規通達による改正前のもの。以下「基本通達」という。)九―六―五に基づき、大和重機に対する貸金七八〇万円の五〇パーセント相当額を損金経理により、債権償却特別勘定に繰り入れた。その後、本件係争事業年度において右七八〇万円の貸金の取立てが不能になつたので、基本通達九―六―一〇に基づき、右債権償却特別勘定の金額三九〇万円を取り崩して益金に算入した。したがつて、差引き本件係争事業年度の貸倒損失額は三九〇万円である。

そして、法人が債権償却特別勘定を設けている場合は、貸倒引当金の対象となる貸金の額は、当該事業年度終了時における貸金(七八〇万円)の額から、当該債権償却特別勘定の金額(三九〇万円)に相当する金額を控除した金額によるとされており、右金額を越えて貸倒損失が生ずるとすることは、基本通達一一―二―八に反する。

(イ) 被告は、本件係争前年度の債権償却特別勘定繰入れによる損金経理を認めながら、本件係争事業年度において突然否認し、原告の神尾山治に対する損害賠償請求権の金額を益金に算入すべきだと主張する。しかし、右措置は基本通達に反する措置である。もし、本件係争前年度の損金経理を認めないのであれば、債権償却特別勘定の額を取り崩して益金に算入すること自体不要である。他方、基本通達に基づいて処理した本件係争前年度の損金経理を認めるのであれば、処分の整合性を考え、少なくとも本件係争事業年度の貸倒損失は三九〇万円を越えることはない。

(二) 貸倒損失相当額(服部勝)二五万円について

原告は、昭和四九年五月二三日服部工務店(代表者服部勝)に二五万円を貸し付けた。その後、同工務店は倒産し服部勝自身も全く資力なく回収不能であつて貸倒損失を認めるべきである。

(三) 岡三商事への販売手数料三〇万円について

原告は、訴外八木昇に対し昭和五〇年一二月二四日加古川市平岡町新在家字風呂の下九〇二―五〇所在の建売住宅を九〇〇万円で売却した。その際、岡三商事が仲介したので、原告は所定の手数料の範囲内で昭和五〇年一二月三一日手数料三〇万円を岡三商事に支払つた。したがつて、右手数料三〇万円を損金に算入すべきである。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。

2  同2(一)について

(1)の冒頭の主張は争う。(ア)の事実のうち、大和重機が昭和四七年七月一日に設立されたこと、神尾山治の実姉が小曳勇夫に稼していることは認め、その余の事実は否認又は不知。(イ)の事実のうち、原告の大和重機に対する融資が別紙のとおりであること。大和重機が倒産(昭和四九年一〇月三一日)し七八〇万円の債権が未回収となつたことは認め、その余の事実は否認する。(ウ)の事実のうち、別紙のとおり手形の決済がされたこと、神尾山治は自己の責任において大和重機に融資したこと、その貸倒損失が七八〇万円であつたことは認めその余の原告の主張は争う。(エ)の主張は争う。

(2)の冒頭の主張は争う。(ア)の前段の事実は認める。なお、原告が本件係争事業年度において決算に計上した貸倒損失は七八〇万円である。後段の主張は争う。(イ)のうち、被告の主張は認め、その余の主張は争う。

3  同2(二)のうち後段の事実は否認する。

4  同2(三)のうち前段を除くその余の事実は否認する。

三  被告の主張

1  本件課税の経緯

(一) 原告は、土木建築業を目的とする資本金三〇〇万円の有限会社で、青色申告書の提出の承認を受けた法人税法二条一〇号に定める同族会社である。

(二) 原告は、被告に対し本件係争事業年度の法人税確定申告書を法定期限内である昭和五一年一一月三〇日、次のとおり記載して提出した。

① 所得金額 九四万七六八五円

② ①に対する法人税 二六万五一六〇円

③ 課税土地譲渡利益金額 二五万三〇〇〇円

④ ③に対する課税 五万〇六〇〇円

⑤ 法人税額計(②プラス③) 三一万五七六〇円

⑥ 控除所得税額等 九万〇一七九円

⑦ 差引確定法人税額(⑤マイナス⑥)二二万五五〇〇円

(三) 被告は、昭和五四年一一月二七日付けをもつて次のとおり更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。なお、次の金額は、いずれも裁決による一部取消後のものである。

① 所得金額 九一七万二六八五円

② ①に対する法人税額 二八二万八八〇〇円

③ 課税土地譲渡利益金額 二五万三〇〇〇円

④ ③に対する税額 五万〇六〇〇円

⑤ 法人税額計(②プラス④) 二八七万九四〇〇円

⑥ 控除所得税額等 九万〇一七九円

⑦ 差引合計法人税額(⑤マイナス⑥)二七八万九二〇〇円

⑧ 既に納付の確定した税額(前記(二)の⑦) 二二万五五〇〇円

⑨ 差引納付すべき税額(⑦マイナス⑧) 二五六万三七〇〇円

⑩ 過少申告加算税 一二万八一〇〇円

2  本件処分の適法性

(一) 本件係争事業年度における所得金額

原告の本件係争事業年度の所得金額は、次のとおり九二九万七六八五円であり、その範囲内で被告のした本件更正処分九一七万二六八五円及び過少申告加算税の賦課決定処分に、違法はない。

① 申告所得金額 九四万七六八五円

② 加算金額

貸倒損失相当額(大和重機) 七八〇万円

貸倒損失相当額(服部勝) 二五万円

販売手数料(岡三商事) 三〇万円

③ 所得金額 九二九万七六八五円

(二) 貸倒損失相当額(大和重機)七八〇万円について

(1) 本件係争事業年度の原告の大和重機に対する貸倒損失額七八〇万円に相当する金額は、益金に算入すべきであり、被告において法人税法一三二条を適用した本件更正処分は、適法である。

(ア) 原告の大和重機に対する貸付状況

原告は、大和重機の代表取締役小曳勇夫の依頼に基づき、別紙のとおり大和重機に対し貸付けを行つているが、その態様は現金・小切手によるほか、次の融通手形によるものがある。

すなわち、原告は、大和重機に対し、商取引の裏付けが存しない多数の約束手形(融通手形)を振出し、その見返りとして、大和重機から原告振出しの融通手形の額面金額に相当する融通手形を受け取ることとしていた。

そして、大和重機は、原告振出しに係る融通手形を裏書譲渡の方法により金融業者等を通じて割引換金し、これを事業資金として運用し又は他の債務の支払いに充てる等としていた。

これに対し、原告は、大和重機振出しに係る融通手形を支払期日まで所持し、その支払期日において原告の取引銀行を通じて取り立てることとしていた。

ところで、原告は、原告振出しに係る融通手形及び大和重機から見返りとして受け取つた同社振出しに係る融通手形を、いずれも正規の備付帳簿に記載せず、原告においてその振出しに係る融通手形を決済した日に初めて正規の備付帳簿の貸付金勘定に経理し、大和重機振出しに係る融通手形が決済された日に右貸付金の返済を受けたものとして経理していた。したがつて、本来、各事業年度終了の日において有する資産及び負債はすべて正規の貸借対照表に計上すべきであるにもかかわらず、原告にあつては貸付金及び受取手形等の簿外資産、支払手形及び仮受金等の簿外負債が存しており、右経理処理は明らかに正規の簿記の原則に反したものであつた。

(イ) 原告の大和重機に対する貸付けの異常性

原告の大和重機に対する貸付けは、極めて異常なものであつた。

すなわち、原告の大和重機に対する貸付けは、昭和四八年八月から始まり、このうち、昭和四八年一〇月一日から昭和四九年九月三〇日までの事業年度(原告の第二期で、本件係争事業年度の前々事業年度)における貸付総額は、当該事業年度終了の日において原告の正規の備付帳簿に記載されていない融通手形(以下「簿外融通手形」という。)の合計金額七〇〇万円(別紙の整理番号四二ないし五六、五八及び五九の貸付金額の合計)を加えると二一六〇万円の巨額に上つていた。

右金額は、当該事業年度における原告の経常収益の金額である完成工事高九八一三万三二五四円及び不動産売上高一三〇〇万円の合計金額一億一一一三万三二五四円の約一九・四パーセント、売上総利益一三〇三万八五六一円の約一・六五倍にも達していた。

しかも、右貸付けは、昭和四九年一月以降急激に増加し、同月以後当該事業年度終了の日までの間における原告振出しに係る融通手形の総数は二八通、額面金額の合計は、一五五〇万円で、右金額に現金又は小切手等による貸付金額を加えた貸付総額は一九一〇万円(別紙の整理番号一四ないし五六、五八及び五九の貸付金額の合計)に及び、これは当該事業年度中における貸付総額二一六〇万円の約八八・四パーセントを占めていた。

このように、不健全な融通手形取引が頻繁かつ多額に要請されるということは、大和重機の資金状態・経営状態が極めて悪化していたことによるものであり、現に大和重機は昭和四九年一〇月三一日倒産した。

また、原告の昭和四九年九月三〇日現在における大和重機に対する貸付金残高は、正規の帳簿上の残高二五〇万円(乙第一号証の一九枚目の「貸付金及び受取利息の内訳書」の大和重機に対する貸付金二七五万円から服部勝に対する貸付金であるにもかかわらず大和重機に対する貸付金であると誤記した金額二五万円を控除した金額)に、同日における簿外融通手形の額面金額七〇〇万円を加えた九五〇万円であり、右金額は同日における原告の社員出資金三〇〇万円の約三・二倍に相当する金額であつた。

加えて、原告は、本件貸付けをするに当たり、契約書の作成、利息の約定等貸付けをするに当たつて基本ともいうべき行為を一切せず、単に原告振出しに係る融通手形の見返りとして右融通手形の額面金額に相当する大和重機の振出しに係る融通手形を受け取るのみであつて、貸付金回収を確実にするための低(ママ)当権の設定又は債務保証等の保全措置は、一切講じていなかつた。

さらに、約束手形を振出した場合には、その裏書を確認することにより、その名宛先の使途を容易に把握することが可能であるにもかかわらず、原告の代表取締役神尾山治は、右確認を怠り、大和重機の代表取締役小曳勇夫の依頼に基づき安易に多額の融通手形を濫発した。

以上の結果、原告においては、その社員出資金三〇〇万円の二・六倍に相当する七八〇万円という巨額の貸倒損失を計上するに至つた。

(ウ) 大和重機からの建設資材調達の有無

原告は、いわゆる青色申告法人であり、その備付帳簿には資産、負債及び資本に影響を及ぼす一切の取引が整然、明瞭に記録されているはずであるが、原告が大和重機から仕入れた鉛ビ管、セメント等は原告の備付帳簿に「仕入れ」として計上されていないこと、原告代表者神尾山治が仕入れた建設資材が昭和五一年四月ころまで残つていたと主張しながら、原告の昭和四九年期、同五〇年期の各確定申告書の「棚卸資産の内訳書」にはいずれも建設資材が棚卸資産として計上されていないことからして、原告と大和重機との間においては原告主張のような取引はなかつた。

仮に、原告と大和重機との間において原告主張のような取引があつたとしても、右取引はオイルショック直後に偶発的に発生した取引であつて、右偶発的に発生した取引をもつて本件貸付けの背景とする原告主張は明らかに失当である。

しかも、右取引金額は、三五万円にしか過ぎず、右金額は原告の本件係争事業年度における材料費の金額五〇九〇万九四六三円に対し、わずか〇・七パーセントにも達しないのであつて、この程度の取引をもつて「大和重機からの建設資材の調達という重要な目的があつた。」とは到底いえない。

(エ) 大和重機との業務提携

原告主張の業務提携の話が出たのは、大和重機が設立された昭和四七年七月一日の直後に原告代表者神尾山治と大和重機代表者小曳勇夫がたまたま出会つた際に出た話にすぎないこと、しかし、その際にも株式や出資の持合い、その他具体的な話がされていないこと、結局業務提携は実現しなかつたこと等からして本格的な業務提携の話があつたとはいえず、これをもつて大和重機に対する貸付けの前提事実又は動機とみることはできない。

また、原告が大和重機から建設資材を仕入れたのは、昭和四八年一〇月一六日のオイルショック直後と主張しているが、原告の大和重機に対する貸付けは、別紙のとおり昭和四八年八月九日から始まつているのであつて、建設資材仕入時期と融資開始時期からみても、建設資材仕入と融資が両者間の業務提携関係に基づくものではないことは、明らかである。

(オ) 原告代表取締役神尾山治個人の原告に対する責任

以上の事実に照らせば、原告代表取締役神尾山治個人は、法人税法二条一〇号に定める同族会社である原告代表者の地位(神尾山治の出資金額は七〇パーセント)を利用して極度に悪化し危険な経営状態、資金状態にあつた大和重機の内情を熟知していながら、義理の兄弟間の情宜に基づき原告の収益力、資本力等を考慮しないで無謀にも前記のような多額の貸付けを行つたこと、融通手形の危険性を熟知しているにもかかわらず融通手形の振出しによる貸付け金回収の保全担保措置を考えることなく安易に行い、又原告振出に係る約束手形の被裏書人の確認を怠つていること、さらに原告自身も大和重機に対する融資は代表取締役である神尾山治が一存でしたと自認していること等からして、原告代表取締役神尾山治個人は、原告会社に対する資本充実の責務、善良な管理者の注意義務ないし忠実義務に違反し、前記無謀な不良貸付けを行い原告に損失を与えたのであるから、原告に対し損害賠償責任を負うことになる。そして原告は、その損失の発生と同時になんらの意思表示もなくして代表取締役神尾山治に対する損害賠償請求権を取得し、その履行を求める関係に立つ。

したがつて、原告は本件係争事業年度に計上した貸倒損失七八〇万円に相当する右損害賠償請求金額を、益金の額に算入すべきである。

この点について、原告は、個人的色彩の強い同族会社においては会社に対する殊更厳格な注意義務を主張するのは不当である旨主張するが、同族会社の取締役について特に会社に対する善管注意義務又は忠実義務を軽減して解すべき根拠はない。

(カ) 法人税法一三二条の適用

原告は、貸倒損失額七八〇万円を損金に算入するのみで、右貸倒損失に相当する金額(七八〇万円)を益金に算入していないが、右は原告が同族会社だからこそ事実上なし得るにすぎないから、法人税法一三二条に該当することは明らかである。

法人税法一三二条の同族会社の行為又は計算の否認規定の趣旨は、同族関係者によつて会社経営の支配権が確立されている同族会社においては、法人税の負担を減少させる目的で、非同族会社では容易になし得ないような行為計算をするおそれがあるので、同族会社と非同族会社との課税負担の公平を期するために、同族会社であるがゆえに容易に選択することのできた課税負担を免れるような行為計算を否認し、同じ経済的効果を発生させるために通常採用されるであろうところの行為計算に従つて、その課税標準を計算し得る権限を徴税機関に認めたものである。

原告の大和重機に対する貸付けは、原告代表取締役神尾山治の個人的動機ないし親族的情宜に基づいてされたもので、その結果、原告は多大の貸倒損失をこうむつた。原告が同貸倒損失をこうむつたのは、神尾山治の原告に対する前記義務違反によることは明瞭であり、したがつて、原告は神尾山治に対し前記貸倒損失(七八〇万円)と同額の損害賠償請求権を行使すべきであるのにもかかわらずこれをしていないのであるから右趣旨からして法人税法一三二条を適用した本件更正処分は適法である。

なお、原告は法人税法一三二条は違憲の疑いがあるというが、同条の解釈として原告も主張しているように、もつぱら経済的、実質的見地において当該行為計算が、純粋経済人の行為として不合理、不自然なものと認められるかどうかを基準として判定すべきものであるが、とりわけ複雑にして激しく変遷する経済事象に対処する規定を設けることは困難であることからして、同条程度の規定の仕方もやむをえないところであつて、同条が憲法八四条に違反するものではない。

また、同条の規定が抽象的で適用基準が不明確との原告主張についても、その解釈適用の基準として、同条は独立・対等で相互に特殊関係のない当事者間の行為計算と異る場合であること、解釈としても経済的合理性を欠いた行為計算の結果として税負担が減少すれば足りるとすること、租税回避ないし減少の意図の存在を要求していないことを要件にすれば、その適用の基準が不明確とはいえない。

(2) 本件係争事業年度における原告の大和重機に対する貸倒損失金額は七八〇万円である。

(ア) 債権償却特別勘定の設定は、法人税法三三条二項において金銭債権について評価損を計上することが禁止されていること、及び貸倒れの事実認定の困難性とも関連して、より簡易な手続による貸倒れの認定、すなわち、実質的な貸倒れの認定に代えて一定の形式基準等によつて部分的な貸倒れの経過的な見積りを認めたものであり、この見積額を暫定的に間接表示する勘定である。そこで、基本通達一一―二―八は、貸倒引当金繰入額の計算の基礎となる貸金の額から、この見積額である債権償却特別勘定の金額を控除することとし、同一の貸金について貸倒引当金と債権償却特別勘定との重複計上を排除する趣旨により、設けられたものである。

(イ) ところで、原告が大和重機に対する貸付金を回収不能として貸倒損失に計上したのは、本件係争事業年度である。

したがつて、原告の大和重機に対する貸付金の回収不能が確定し、原告が回収不能となつた貸付金を貸倒損失に計上した本件係争事業年度において、右貸倒損失に相当する損害賠償請求権の金額を益金に算入すべきである。

(三) 貸倒損失相当額二五万円について

原告が本件係争事業年度において貸倒損失に計上した服部勝に対する貸付金二五万円は、本件係争事業年度末日までに貸倒損失の計上を認めるに足りる事実が発生していないので、本件係争事業年度の損金に算入されない。

(1) 服部勝に対する貸付金の状況

(ア) 原告の昭和四八年二月七日(原告会社の設立日)から昭和五三年九月三〇日までの間における服部勝(服部工務店を含む。以下同じ。)に対する貸付金は、昭和四九年五月二三日の貸付け二五万円、及び昭和五三年三月三一日の貸付け一〇〇万円を除き、昭和五三年九月三〇日までに確実に回収されている。

(イ) ところで、原告が被告に提出した昭和四九年九月期の確定申告書に、添付した昭和四九年九月三〇日現在の貸借対照表の資産の部の「12貸付金」には、二七五万円と記載されており、同日現在において原告の有する貸付金総額は二七五万円であると認められ、同申告書添付の「貸付金及び受取利息の内訳書」(以下「貸付金内訳書」という。)には、大和重機に対する貸付金二七五万円と記載されているのみで、服部勝に対する貸付金の記載がない。

しかしながら、原告の服部勝に対する同日の貸付金の現在高は二五万円であり、他方、原告の大和重機に対する同日の貸付金の現在高は、別紙の整理番号「四一」の「摘要」欄記載のとおり二五〇万円である。

右のように、原告の同日における貸付金現在高二七五万円の内訳は、大和重機二五〇万円、服部勝二五万円であるにもかかわらず、原告は服部勝に対する貸付金の現在高二五万円を大和重機に対する貸付金であると誤認し、大和重機に対する貸付金の現在高を二七五万円と実際額より二五万円多く記帳し、決算していた。

(ウ) 右のとおり、原告が誤記をしたことは、原告の以後の事業年度である昭和五〇年九月期以後の各事業年度においても、少なからず影響している。

すなわち、昭和五〇年九月三〇日における原告の大和重機に対する貸付金の現在高の正当額は、別紙の整理番号「六五」の「摘要」欄記載のとおり七八〇万円であるにもかかわらず、原告は右金額を八〇五万円とし、正当額より二五万円多く記載している。

(2) 本件係争事業年度における服部勝倒産の有無

原告が右貸付金を貸倒損失に計上した経緯は、前述したように、原告が服部勝に対する右貸付金を大和重機に対する貸付金と誤記したことに起因するのであつて、本件係争事業年度においては、服部勝について倒産等貸倒損失の計上を認めるに足りる事実は、生じていない。

すなわち、原告が被告に提出した本件係争事業年度の確定申告書の貸付金の内訳書には、昭和五一年四月一五日に原告が服部勝に貸し付けたと認められる七五万円が、貸付金に計上されている。

しかも、原告の服部勝に対する貸付金又は仮払金は、原告の昭和五二年一〇月一日から昭和五三年九月三〇日までの事業年度、及び昭和五三年一〇月一日から昭和五四年九月三〇日までの事業年度の資産に、計上されている。つまり原告は、本件係争事業年度後においても、服部勝に対する貸付債権を有しているのである。

以上の次第で、原告が本件係争事業年度において貸倒損失に計上した服部勝に対する貸付金二五万円は、服部勝において貸倒損失の計上を認めるに足る事実が、なんら発生していないにもかかわらず、原告が昭和四九年五月二三日に服部勝に貸し付けた二五万円を大和重機に対する貸付金と誤記したことに起因するものであつて、本件係争事業年度の損金に算入すべきでない。

(四) 岡三商事に対する販売手数料三〇万円について

原告が、昭和五〇年一二月三一日に岡三商事に支払つた販売手数料三〇万円は、損金に算入する余地はない。

(1) 岡三商事は、いわゆる青色申告法人でその備付帳簿の記載内容は十分信頼できるところ、同商事の会計帳簿には右販売手数料の受入記帳がないこと、その他右手数料を受け取つた事実を証するに足りる資料もないこと、特に岡三商事の代表者が領収証を発行していないこと、右手数料の収益計上漏れを原因とする修正申告書を提出していないことのほか、原告が訴外八木昇に原告主張の不動産を売却するにつき、その売買契約書に岡三商事が仲介業者として署名押印等をしていないことからして、岡三商事が右売買契約の仲介をした事実は認められない。

(2) さらに、被告が本件処分と同日付けで、原告の昭和五一年一〇月一日から昭和五二年九月三〇日までの事業年度について更正処分を行い、同事業年度において原告が岡三商事に支払つたとする販売手数料八八万円を本件処分の販売手数料三〇万円と同様の理由により、その損金算入を否認しているにもかかわらず、原告は右更正処分につきなんらの不服申立てをしていない。これは、本件処分に販売手数料三〇万円を原告が岡三商事に支払つていないことを、推認させるに十分である。

(五) 以上のとおり、原告の大和重機に対する貸倒損失相当額七八〇万円は益金に算入すべきであること、服部勝に対する貸倒損失相当額二五万円は貸倒損失とは認められないこと、岡三商事に対する販売手数料三〇万円はその支払事実がないので損金に算入されないことからして、右各金額に申告所得金額九四万七六八五円を加えた九二九万七六八五円が、原告の本件係争事業年度の所得金額である。したがつて、右範囲内で被告の行つた本件係争事業年度の更正処分九一七万二六八五円、及び過少申告加算税の賦課決定処分はなんら違法ではない。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二大和重機に対する貸倒損失相当額七八〇万円について

1  大和重機が昭和四七年七月一日に設立されたこと、神尾山治の実姉が大和重機の代表取締役小曳勇夫に嫁していること、原告の大和重機に対する貸付金の異動状況が別紙のとおりであること、神尾山治の責任で貸付けをしたこと、大和重機が倒産した結果七八〇万円の債権が未回収となつたこと、原告は本件係争前年度において右七八〇万円の内三九〇万円を債権償却特別勘定に繰り入れたこと、本件係争年度において右七八〇万円の債権取立てが不可能になつたので前年度に債権償却特別勘定に繰り入れた三九〇万円を取り崩して益金に算入したことは、いずれも当事者間に争いがない。

2  右当事者間に争いのない事実に加え、<証拠>を総合すると、以下の事実が認められる。

(一)  大和重機(本店所在地岡山県英田郡英田町福本七七九番地)は小曳勇夫の個人経営の時代を経て昭和四七年七月一日に土木建設工事請負を目的とし(実際の主な事業内容は宅地、ゴルフ場の造成、道路新設など)、資本金五〇〇万円で設立された同族会社であつた。会社設立に際し、重機車両等の設備を約二億円(長期手形)で購入したが、その後のオイルショックにより約二億七〇〇〇万円の負債を抱えて後記のとおり倒産した。

(二)  また、大和重機は神尾山治さらに大和重機設立の後に設立された原告とは、資本的には全く関係がなかつた。もつとも、両者間には一時業務提携の話もあつたが、これも大和重機設立直後にあつたもので具体的な話合いにまで発展せず、その後実現もしなかつた(したがつて、大和重機との業務提携をもつて原告の大和重機に対する貸付けの動機とする原告の主張は失当である。)。

なおこの点、原告は第一回オイルショックの時期に大和重機から入手困難な建設資材の調達を受け当時請負つていた工事を完成させることができたので不況時の相互共助共存の関係から原告の大和重機に対する貸付けをしたと主張し、原告代表者尋問の結果中にはこれに沿う供述もみられるが、その取引金額がわずか四〇万円に満たないこと(この点は当事者間に争いがない。)、取引時期が第一回オイルショックという異常な時期であることからして偶発的な取引と考えられること、原告の大和重機に対する貸付けの開始が昭和四七年以降比較的長期にわたつて行われているのに対し大和重機から原告に対する援助は右建設資材調達以外にみるべきものがうかがわれないこと等からすると、右事情も原告代表者神尾山治の右貸付けが原告のためにその義務として行われたことを理由付ける事情とはいえない。

(三)  他方、原告は、神尾山治の個人経営の時代を経て昭和四八年二月七日に土木建築業を目的として(実際の主な業務内容は注文建築のほか木造建築及び完成させた建築物の売却など)、資本金三〇〇万円で設立された同族会社である。社員は、代表取締役が神尾山治(出資口数二一〇〇)、取締役が神尾山治の妻神尾敬子(出資口数四〇〇)及び同女の弟神尾武郎(出資口数五〇〇)で、神尾山治の出資口数は全体の七〇パーセントを占める。

なお、原告は青色申告法人である。

(四)  大和重機が設立当初から多額の借財を抱えていたので、神尾山治は大和重機代表取締役小曳勇夫に頼まれ同人と親族関係にあつたことなどから、昭和四七年一〇月ころから大和重機に対する貸付けを開始し、昭和四八年八月以降の貸付状況は別紙のとおりである。貸付の態様は現金、小切手のほかはいずれも融通手形の交換方法によるものであり、貸付けに際し当事者間で契約書を取り交したことも、利息の取決めをしたこともなく、事実青色申告法人である原告の帳簿には利息取決めの記載が見当たらない。また、貸付金の回収を確保するために、担保あるいは保証を取つた形跡は、見当たらない。

(五)  とりわけ、オイルショック後の昭和四九年三月以降は貸付け額も急激に増え、大和重機は昭和四九年一〇月三一日に事実上倒産した。その結果、大和重機に対する回収不能となつた貸付金額は七八〇万円に達した。

(六)  そこで、原告は右七八〇万円を原告の貸付金として本件係争事業年度の前年度において右七八〇万円の五〇パーセントに相当する三九〇万円(乙第三号証の一一枚目は四〇二万五〇〇〇円を繰り入れたことになつているが、これは後記服部勝に対する分一二万五〇〇〇円を含んでいるからである。)を損金経理により債権償却特別勘定に繰り入れた。

そして、原告は本件係争事業年度において右七八〇万円全額につき貸倒れが生じたとして貸倒損失を損金の額に算入する(乙第四号証一七枚目裏「貸倒損失九四〇万円」は大和重機に対する七八〇万円のほか服部勝に対する貸付金二五万円及び沼田建設株式会社に対する売掛金一三五万円を加えたもの。)とともに、債権償却特別勘定の三九〇万円(乙第四号証の一一枚目は四〇二万五〇〇〇円を取り崩したことになつているが服部勝に対する分一二万五〇〇〇円を含んでいること前記のとおり。)を益金の額に算入した。

3  以上の事実によれば、原告代表者神尾山治の大和重機に対する右貸付けは、既に設立当初から多額の負債を抱えていた大和重機に対し、昭和四七年一〇月ころから約二年間にわたり、大和重機の資金力、営業成績等を考慮することなく、原告の規模・資金力に比べてかなり多額の金額を無担保無保証で貸付けたものであり、しかも原告代表者神尾山治は大和重機に対する貸倒れを予見回避すべき立場にありながら、特に昭和四九年三月以降は貸倒れ損失の発生を予見しながらもなお貸付けを続け、大和重機の倒産の結果、右貸付金は貸倒れとなつて損失金となつたものと解さざるをえない。そして、原告代表者神尾山治の右貸付けは、原告の利益のためにその業務として行われたというよりは、むしろ大和重機代表者小曳勇夫に対する個人的親族的情宜(以前に援助を受けたことがあつたり親族関係にあることから断りきれずに)に基づき大和重機のために行われたものではあるが、原告代表者神尾山治が原告代表者の地位を利用し原告名で貸付けたものであるから、右貸付けの動機目的はともかくとしても、原告の大和重機に対する貸付けであり、したがつて右貸倒れ損失は原告の損失と解さざるをえない(右貸付けを神尾山治と大和重機との個人的貸借と解することは相当ではない)。

そうすると、原告代表者神尾山治は原告代表者の地位を利用し、大和重機に対し原告の資金を無担保無保証で不良に貸付け、その結果大和重機の倒産に伴つて本件貸付金等が貸倒れとなり、原告に七八〇万円の損失を負わせたものといわざるをえない。

そして、原告代表者神尾山治の右貸付自体は原告の定款目的を著しく逸脱したものであり、これが代表取締役としての善管注意義務に違反した行為といわざるをえないが、とりわけ、取締役の会社に対する会社資本充実の責務、忠実義務(有限会社法三二条、商法二五四条の三)に違反する行為なので、原告は有限会社法三〇条の二第一項三号により前記貸倒れ損失七八〇万円が原告の損害として発生すると同時に、なんらの意思表示なくして同額の損害賠償請求権を取得しその履行を求め得る関係に立つ(なお、原告は有限会社が個人的色彩が強いことを理由に取締役の有限会社に対する賠償責任を限定すべきである旨主張するが、そのように解すべき法律上の根拠はない。)。したがつて、原告は本件係争事業年度において貸倒損失七八〇万円と同額の損害賠償金を益金に算入すべきである。にもかかわらず、原告は、その処理をとらずまた右損害賠償請求権を行使しようともしない。

この点、被告は法人税法一三二条を適用して前記貸倒損失七八〇万円の損金算入を否認しているが、むしろ貸倒損失七八〇万円と同額の損害賠償金を益金に算入して更正すべきであつた。しかし、いずれの処理をとるも法人税額を計算するうえにおいて益金に算入すべきである限りでは同じであるから、この点に関する本件更正処分の所得計算は結論において正当である。

したがつて、この点に関する原告の主張は採用できない。

4  次に、本件係争事業年度における貸倒損失は三九〇万円を超えないとの原告の主張について検討する。

(一)  法人税法三三条二項は金銭債権の評価損の計上を禁止しているが、実際問題として部分的貸倒れを絶対に認めないことは実際の経済情勢に即応できないことは顕著な事実であり、また貸倒損失が生じたかどうかについてその判定に疑義が生ずることが多いことから、基本通達は九―六―四以下において債権償却特別勘定を設けている。右通達の適法性については、原告自身争つているわけでもなく、右通達によつて定められている要件を厳格に解釈して適用する限り、これによつて特別に一部のものの租税負担が軽減され不公平な結果を招来するものではないと解されるので、右通達はその合理性を十分に有しており、前記制定趣旨からしてもあえて不適法ということはできない。

(二)  本件において、前記認定事実によると、原告は本件係争事業年度の前年度において三九〇万円を基本通達九―六―五に基づき損金経理により債権償却特別勘定に繰り入れ、本件係争事業年度において七八〇万円について貸倒れが生じたとして損金算入するとともに債権償却特別勘定の三九〇万円を基本通達九―六―一〇に基づき益金の額に算入している。右処理自体は基本通達に沿つた正当なもので、被告においてもその処理の正当性を認めるところである。

ところが、原告は右処理の結果本件係争事業年度における貸倒損失は、差引き三九〇万円であると主張する。しかしながら、基本通達九―六―一〇に基づく益金算入の趣旨は債権償却特別勘定の金額が実質的な貸倒れの暫定処理にすぎず現実に貸倒れが生じた以上、正当な処理に振り替えることが妥当であるとするものと解される。したがつて、本件係争事業年度において七八〇万円を損金算入する以上、暫定処理である債権償却特別勘定の金額三九〇万円をそのままにして益金に算入しないと損金として三九〇万円が重複して処理される不合理な結果となる。原告は、この点を看過して差引計算を主張するもので、主張自体失当といわなければならない。

また、原告は三九〇万円を超えて貸倒損失が生ずるとすることは基本通達一一―二―八にも反すると主張する。しかしながら、基本通達一一―二―八の趣旨は、債権償却特別勘定が部分的な貸倒れの経過的暫定的処理として認められていることからして、貸倒引当金(あくまでも貸倒損失額の見込額である。)が繰入額の計算の基礎となる貸金から本来控除すべきもの(そう解さないと貸倒引当金額と債権償却特別勘定金額とが重複計上されることとなる。)と解される。ところが、本件においては、原告自身、原告の大和重機に対する貸付金七八〇万円が本件係争事業年度において回収不能となり貸倒損失に計上したことを自認しているのであるから、貸倒損失の見込額としての貸倒引当金に関する基本通達を引用して差引計算をすることは、貸倒損失と貸倒引当金とを混同したものといわなければならず、主張自体失当である。

(三)  以上により、本件係争事業年度における貸倒損失が三九〇万円であるとの原告の主張は理由がなく、貸倒損失は七八〇万円であるからそれと同額の損害賠償金を益金に算入すべきである。

三貸倒損失相当額(服部勝)二五万円について

1  <証拠>を総合すると、以下の事実が認められる。

(一)  原告は、昭和四九年五月二三日に自己の下請である服部勝(服部工務店を含む。以下同じ。)に対し二五万円を貸し付けた。ところが、原告の昭和四八年一〇月一日から昭和四九年九月三〇日までの事業年度の確定申告書には貸付金の内訳として、大和重機に対し二七五万円を貸し付けたとのみ記載している。

(二)  翌昭和四九年一〇月一日から昭和五〇年九月三〇日までの事業年度(本件係争事業年度の前年度)の確定申告に際しても、右二七五万円の貸付金はそのまま大和重機に対する貸付金八〇五万円に含まれて計上された。そして、原告は前記認定のように、右貸付金について基本通達九―六―五に基づき半額の四〇二万五〇〇〇円を損金経理により債権償却特別勘定に繰り入れた。

なお、原告は昭和五〇年九月二六日に服部勝に対し五〇万円を貸し付けており、同事業年度の確定申告書の貸付金の内訳書にはその旨記載されている。

(三)  本件係争事業年度においては、原告は、前記認定のとおり、大和重機に対する貸付金につき貸倒れが生じたとして八〇五万円を損金の額に算入し、他方、債権償却特別勘定の四〇二万五〇〇〇円を取り崩して基本通達九―六―一〇に基づき益金の額に算入している。

なお、原告が昭和五〇年九月二六日に服部勝に貸し付けた五〇万円は、本件係争事業年度内である昭和五〇年一一月二八日に原告が返済を受け、原告はその後の昭和五一年四月一五日に改めて七五万円を服部勝に貸し付けており、本件係争事業年度の確定申告に際し貸付金の内訳書にその旨記載している。その後、右七五万円につき、原告は昭和五一年一一月三〇日に三〇万円、昭和五二年九月二日に一〇万円、同月五日に一〇万円、同月二五日に二五万円の返済をそれぞれ受けている。

(四)  この間、原告が昭和四九年五月二三日に貸し付けた二五万円について、服部勝から返済された形跡は見当たらない。

(五)  原告は服部勝に対し、昭和五二年一二月一日に一〇〇万円を貸し付け、昭和五三年一月一〇日にその返済を受けているほか、昭和五三年三月三一日に再び一〇〇万円を貸し付けている。そして、原告の昭和五二年一〇月一日から昭和五三年九月三〇日までの事業年度の確定申告に際しては、貸付金の内訳書に服部勝に対する一〇〇万円の貸付けがあることを記載している。

(六)  さらに、昭和五三年一〇月一日から昭和五四年九月三〇日までの事業年度においては、原告はその確定申告に際し、服部勝に対し二五〇万円の仮払金を計上している。

2  以上の認定事実に加え、昭和五〇年九月三〇日における原告の大和重機に対する貸付金の現在高が別紙整理番号「六五」の「摘要」欄記載の七八〇万円であることは、原告においても認めているのであるから、原告が昭和四九年五月二三日に服部勝に貸し付けた二五万円は、原告において残高確認を怠り大和重機に対する貸付金に含めて処理されたものと推認される。したがつて、右二五万円については、原告が、大和重機に対する貸倒れ損金として、本件係争事業年度の前年度においてその半額の一二万五〇〇〇円を債権償却特別勘定に繰り入れ、本件係争事業年度において右金額を取り崩して益金に算入し、かつ二五万円金額を損金の額に算入したのは、誤つた処理といわざるをえない。しかも、昭和五〇年九月三〇日において服部勝が債務超過などにより右二五万円の債権が回収不能となつたと考えられないことは、その後、原告と服部勝との間で何度か金銭の貸借があり、服部勝においてその返済をおおむね行つていることから明らかである。

そうすると、原告が本件係争事業年度において大和重機に対する貸倒損失として誤つて計上した服部勝に対する貸付金二五万円は、真実の借主服部勝との関係で貸倒損失に計上するに足りる事実がなんら発生していないのであるから、本件係争事業年度の損金に算入すべきでない。

四岡三商事への販売手数料三〇万円について

1  <証拠>を総合すると、以下の事実が認められる。

(一)  原告は、昭和五〇年八月二九日付け売買契約に基づき、同年一二月に訴外八木昇に対し加古川市平岡町新在家字風呂の下九〇二―五〇の宅地、及び同地上の家屋を九〇〇万円で、売却した。

(二)  ところが、右取引に係る原告保管の売買契約書(甲第一号証)には取引業者欄は空白で岡三商事の記載はなく、また原告が岡三商事に支払つたという仲介手数料の支払いの事実を明らかにする領収証その他これに類する書面は、存在しない。

(三)  もつとも、原告の営業取引仕訳日記帳(甲第六号証の一、二)には、岡三商事に対し昭和五〇年一二月三一日に仲介手数料三〇万円を現金で支払つた旨記載されている。

(四)  しかし他方、岡三商事の会計帳簿には、右取引に係る三〇万円の仲介手数料の受入記帳はなく、その他右手数料を受け取つたことを証するに足りる資料も存在しない。また、岡三商事がその所轄税務署長に対し、右手数料の収益計上漏れを原因とする修正申告書を提出した形跡もない。

(五)  訴外八木昇の保管する右取引に係る売買契約書には、取引業者欄には岡三商事の記載があり、訴外八木昇は仲介手数料として二〇万円を岡三商事に支払つた。

(六)  被告は、本件更正処分と同日付けで原告の昭和五一年一〇月一日から昭和五二年九月三〇日までの事業年度について更正処分を行い、同事業年度において原告が岡三商事に支払つたとする仲介手数料八八万円を前記三〇万円の仲介手数料と同様の理由により、その損金算入を否認しているにもかかわらず、原告は右更正処分に対し何ら不服申立てを行つていない。

右認定に反する証人岡一之の証言部分は措信できない。

2  以上の事実によると、仮に岡三商事が原告・訴外八木昇間の右売買契約の仲介をしていたとしても、原告は岡三商事に三〇万円の仲介手数料を支払つていないというべきである。もつとも、原告の営業取引仕訳日記帳には三〇万円を支払つた旨記載されているが、右記載がどのような資料に基づいてされたか明らかでなく、まして領収証その他これに類する書面も存在せず、相手方である岡三商事側の資料にも仲介手数料を受け取つたことを証する資料もないことから考えれば、右仲介手数料三〇万円の支払を認めるに足りない。

五本件処分の適法性

以上の次第で、その余の点について判断するまでもなく、原告の本件係争事業年度の所得金額は、申告所得金額九四万七六八五円に、七八〇万円(大和重機関係)、二五万円(服部勝関係)及び三〇万円(岡三商事関係)を加えた九二九万七六八五円であるから、その範囲内でした被告の本件更正処分は適法であり、したがつて過少申告加算税の賦課決定処分も適法である。

六結論

よつて、本件処分は適法であり、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(村上博巳 小林一好 横山光雄)

別紙<省略>

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